東京証券取引所は1112日、ソフトバンクグループ(SBG)の通信子会社「ソフトバンク(SB)」の新規上場(IPO)を承認した。1219日に東証に上場する。今回、そのIPOの意義について述べてみたい。

 

26000億円は過去最大のIPOファイナンス額

 

本件は、公募はなく、売出しのみ約26460億円(国内21409億円、海外2646億円 オーバーアロットメント2405億円)であり、想定発行価格1500円で換算したソフトバンク(SB)の株式時価総額は約71807億円となる。

 2006年におよそ2兆円を投じて英ボーダフォン・グループから日本法人を買収したソフトバンクグループ(SBG)は10年あまりを経て約7兆円の会社に成長させたことになり、

今回、調達した資金を世界の有望企業に投資する「ビジョン・ファンド」など投資会社としての成長資金に充てる方針である。

 

本件の主幹事は野村證券であり、Bloombergの報道によれば、 全体を取りまとめるジョイント・グローバル・コーディネーターには野村證券、ゴールドマン・サックス証券、みずほ証券、ドイツ銀行、JPモルガン証券、SMBC日興証券が選定され、株式引受額は国内外含めて、野村證券が約6300億円、大和証券が約4500億円、みずほフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループが4000億円程度、三菱UFJフィナンシャル・グループは3000億円超を引き受けるとのこと。

また、海外ではゴールドマン、ドイツ銀、JPモルガン、野村、みずほの5社がそれぞれ300億円程度を引き受ける。

 

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このグラフは国内の大型IPOの公開価格(※初値ではない)での株式時価総額と上場時のファイナンス額を比較したものである。

このような比較を行う場合、絶対額だけの比較はあまり意味がなく、当時の日経平均、いわゆるマーケット環境を考慮する必要がある。

ソフトバンク(SB)は今回、19872月上場のNTT23750億円のファイナンス額を抜き、国内最大のIPOファイナンスとなる。しかもNTT上場時よりも日経平均が高い環境であり、今までのIPOとしては一番恵まれた環境での上場といえる。それでも、NTTの時価総額は当時でも19兆円近くあり、依然ソフトバンク(SB)の3倍近くあることが分かる。

また、NTTドコモは199810月上場で、2兆円をファイナンスしているが、同月に日本長期信用銀行が破綻するなどの金融危機の最中であったことを鑑みれば、むしろNTTドコモのIPOの方が、かなり難しいディールであったことが想像される。

 

また、これまで世界のIPOで過去最高額を記録したのは中国のアリババ集団であり、2014年にニューヨーク証券取引所に上場し、当時の為替レートで27000億円を調達した。今回はその水準に近いことも興味深いところではある。

 

■親子上場の審査基準に十分仕上げてきた印象

 

今回上場するソフトバンク(SB)の親会社はすでに上場しているソフトバンクグループ(SBG)である。

親子上場とは、ある会社の支配権を持つ親会社とその親会社に支配される子会社が同時に上場していることを指す。

 

東証では、親子上場を規則上認めている。

上場審査に係る「親会社等」の定義は財務諸表等規則第83項に定められており、要約すると「親会社とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう。)を支配している会社等をいい、子会社とは、当該他の会社等をいう。」ということになっている。

 

今回上場時の売り出し後も、ソフトバンクグループ(SBG)はソフトバンク(SB)の株式を63%超保有しており過半数を占め、連結対象となり有価証券届出書でも親会社として認識している。

 

親子上場では常に親会社と子会社の少数株主との利益相反や、親会社から見た子会社少数株主への利益流出などが課題とされており、私も実務で過去に何社かその課題解決に携わって来た。

 

上場審査の形式基準では、東証一部の場合、「流通株式が35%以上あること」だけである。

要は議決権の3分の2を保有させず、株主総会の特別決議をさせないということだ。

以下は流通株式として認められない株主の属性である。

 

※新規上場審査で流通株式と認められない株式

・上場会社(自己株式)

・上場会社の役員

・上場株式数の10%以上を所有する者又は組合等

・上場会社の役員の配偶者及び二親等内の血族

・上場会社の役員、役員の配偶者及び二親等内の血族により総株主の議決権の過半数が保有されている会社

・上場会社の関係会社およびその役員

 

そういった意味では、今回の上場は形式基準をなんとかクリアしている。

 

一方で実態基準として、特に子会社の上場については、親会社に依存することなく、独立した事業運営が可能か否かが、審査上重要であり、ヒト、モノ、カネ、情報等すべてにおいて、一定の定量的な数字をクリアしなければならず、それなりにハードルが高い項目もある。

 

具体的には、親会社から出向していた主要部門長を転籍させたり、親子間で取引を行っていた場合、その商取引の価格含めた取引条件が第三者と取引を行う場合と、遜色のないものに条件変更したり、役員構成の過半数を親会社出身以外の人間にすることが必要になる。

 

以下の表が今回、有価証券届出書で記載されている関連当事者取引(親会社との取引)である。従来膨大だった取引額がこの3月で概ね解消されており、ほとんどのものがこの9月までに解消となっている。唯一対外的な相手である、金融機関からのソフトバンク(SB)への融資に対し、ソフトバンクグループ(SBG)の債務保証が上場承認日現在でも付いているが、上場承認を条件として、債務保証が解除となる予定だ。

 

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また、人材についても、

業務分掌を受けた組織体の責任者であるライン長(各組織体における組織長)以上の人事については、親会社からの独立性および経営の安定性の観点から、出向関係を解消し転籍した者としており、今後も継続的に出向関係のモニタリングを行い、出向期間は当社主導で決定できるようにする方針です。また、受入出向の社員について、昇格にてライン長以上になる場合には、出向関係を解消することとします。(有価証券届出書 P50

 

と記載されており、解釈判断を要することなく、概ね一般的な上場審査基準の要件を十分満たしていると考えられ、短期間にこの規模感の人事・取引解消を仕上げてきたことについては、上場プロジェクトメンバーに敬意を表したい。

 

 

■予想PERNTTドコモ、KDDIを上回る水準

 

次に事業内容・業績動向を再確認したい。

セグメントは4つに分かれる。

個人向け移動通信サービス事業、いわゆる「SoftBank」ブランド、「Y!mobile」ブランド、「LINEモバイル」ブランド運営のコンシューマー事業、法人向け移動体通信サービス、固定電話、VPN、クラウドサービスを行う法人事業、創業事業であるソフトウエアの卸売等を行う流通事業、そしてその他の4つである。

 

更にコンシューマー事業はスマートフォンの売上、通信料を中心とするモバイル部門、「Softbank光」を中心とするブロードバンド部門、物販に分かれ、法人事業は法人向けモバイル部門、法人向け固定電話サービスの固定部門、ソフトバンクグループ(SBG)が投資する会社をはじめとする事業会社との提携による協働事業としてのソリューション部門がある。

 

以下のグラフはセグメント別の売上高、営業利益推移と今期予想である。


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売上高はコンシューマー事業が全体の75%近くを占め、更にモバイル部門で全体の45%の売上を占める事業構造となっている。従来より売上高は2%成長であり、今期予想は37000億円の4.3%の見込みである。また営業利益は今期予想は7000億円であるが、従来は6500億円前後の水準となっており、その内訳は全体利益の90%近くを個人向けモバイル部門が稼いでおり、利益率も圧倒的であるが、前期は利益額を落としている。今期は先行投資が回収に入る時期として増収増益の見通しとなっている。

 

続いてバリュエーションを見てみたい。

今期の一株当たり純利益(EPS)は8773銭であり、想定発行価格の1500円から換算すると今期の予想PER倍率は17.1倍となる。

同業他社であるNTTドコモの1112日終値3か月平均の予想PERは、15.4倍、同KDDI11.3倍であり、対NTTドコモでは11%、対KDDIでは50.4%のアドバンテージとなっている。

なお、今回のソフトバンク(SB)は従来よりソフトバンクグループ(SBG)のIRにて業s系は開示されていたため、IPOディスカウントはないと考えてよい。いわゆるフェアバリューである。

一方で、NTTドコモの今期の予想売上高当期純利益率は13.7%、同KDDI12.0%に対してソフトバンク(SB)は同11.4%であり、劣後している。

 

それでも、ソフトバンク(SB)の株が評価されている理由は何か?

有価証券届出書記載の配当政策では、今回ソフトバンク(SB)連結配当性向は、純利益に対し85%程度を目安とし、安定的な配当の実施を目指す。配当性向水準は、競合他社のNTTドコモの49.6%、KDDI38.2%より高いことが評価されていると考えられる。

 

■コングロマリット・ディスカウントは解消の方向

 

以前のIR説明会で孫氏は、ソフトバンク(SB)を上場させることはコングロマリット・ディスカウントからの解放だと言っていた。

コングロマリット・ディスカウントとは、積極的なM&Aなどを通じて事業を多角化している企業において、単体でそれぞれの事業を営む場合と比較した時に、市場からの評価が低下し、株価が下落している状況をいう。

 

コングロマリットを形成するメリットとしては、様々なリスク耐性に強いということが言えるが、一方で、シナジー効果を生まない事業を同時に展開していることで、経営資源が分散し、経営の複雑化によって様々なコストがかかり、競争力が低下するというデメリットがある。投資家の立場としても、自らの意思で様々な業種に投資をして、リスク分散を図っているため、敢えてコングロマリット銘柄を保有する理由も乏しいといえる。

これらの理由から、市場の評価も厳しくなる傾向がある。

 

そこでソフトバンク(SB)への適正な価値が評価されていないということだったが、そもそもソフトバンクグループ(SBG)は業績見通しを開示していないので、その説明は成り立ちにくい。但し、QUICKのコンセンサスでの今期のソフトバンクグループ(SBG)のEPS73636銭、日経のコンセンサスは91735銭であり、平均値は82676銭となり、ソフトバンクグループ(SBG)の3か月平均の予想PER12.0倍となる。

 

今回ソフトバンク(SB)の予想PER17.1倍であり、これを鑑みれば確かに、従来コングロマリット・ディスカウントがかかっており、それが解消となったということも出来るだろう。

 

筆者は従来から、親子上場に否定的な意見を述べてきたが、それに対する妥当性が唯一あるとすれば、このコングロマリット・ディスカウント解消だった。今回、親子上場の形式・実態審査基準を厳格にクリアしてきた努力も踏まえ、ぜひ本件のディールの成功を切に願いたい。

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