【ソフトバンクを子会社上場させることの意味】

 

今年の1月、ソフトバンクグループ(SBG)は傘下の携帯事業会社ソフトバンク(SBKK)を東証一部に上場させる方針発表し、現在、年内の上場に向け、東証などと近く本格的な調整に入った。資金調達額は2兆円程度で、過去最大規模の新規株式公開(IPO)になる見込みとか。財務体質の悪化を避けつつ、調達した資金を新たな成長分野へ投資するのが目的らしいが、今回は親子上場の論点と取引所規則について、考えてみたい。


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■親子上場の何が問題なのか?

 

親子上場とは、ある会社の支配権を持つ親会社とその親会社に支配される子会社が同時に上場していることを指すが、まずは親会社、子会社の定義を確認する。

 

東証では、親子上場を規則上認めている。

上場審査に係る「親会社等」の定義は財務諸表等規則第83項に定められており、要約すると「親会社とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう。)を支配している会社等をいい、子会社とは、当該他の会社等をいう。」ということになっている。

 

親子上場では常に親会社と子会社の少数株主との利益相反や、親会社から見た子会社少数株主への利益流出などが課題とされており、私も実務で過去に何社かその課題解決に携わって来た。

 

上場審査の形式基準では、東証一部の場合、「流通株式が35%以上あること」だけである・

 

※新規上場審査で流通株式と認められない株式

・上場会社(自己株式)

・上場会社の役員

・上場株式数の10%以上を所有する者又は組合等

・上場会社の役員の配偶者及び二親等内の血族

・上場会社の役員、役員の配偶者及び二親等内の血族により総株主の議決権の過半数が保有されている会社

・上場会社の関係会社およびその役員

 

一方で実態基準として、特に子会社の上場については、親会社に依存することなく、独立した事業運営が可能か否かが、審査上重要であり、ヒト、モノ、カネ、情報等すべてにおいて、一定の定量的な数字をクリアしなければならず、それなりにハードルが高い項目もある。

 

具体的には、親会社から出向していた主要部門長を転籍させたり、親子間で取引を行っていた場合、その商取引の価格含めた取引条件が第三者と取引を行う場合と、遜色のないものに条件変更したり、役員構成の過半数を親会社出身以外の人間にすることが必要になる。

 

■東証は近年、親子上場に否定的なスタンスだった

 

親子上場は認められてはいるものの、200710月に当時の各証券取引所共同声明としての「中核的な子会社の上場に関する証券取引所の考え方について」で、「親会社グループのビジネスモデルにおいて、非常に重要な役割を果たしている子会社、親会社グループの収益、経営資源の概ね半分を超える子会社などのいわゆる中核的な子会社の上場については各企業グループ、子会社の事業の特性、事業規模、過去の業績の状況、将来の収益見通し等を総合的に勘案しながら、慎重に判断していくことといたします。」と発表されている。

 

また、200912月の当時の東京証券取引所グループの斉藤惇社長は、ブルームバーグのインタビューに対して、強制的な措置は考えていないと言ったうえで、「子会社の犠牲の上に親会社が利益を上げるケースもあれば、その逆も起こる可能性がある。(親会社が取締役の派遣などを通じて子会社の経営を握ることで、利益相反を引き起こす可能性があることから)親会社が上場子会社を吸収合併して連結対象とすることを推奨したい」と話している。

 

それ以降、取引所からの親子上場に関する方針、コメントは発表されていないが、実際には親子上場企業数は 2006 年度末の417 社をピークに減少が続いており、20173月末では270社のとなっており、減少の主な理由は親会社による子会社の完全子会社化である。いわゆる、ガバナンスも、利益も全て親会社が吸収するという極めてシンプルな構図に戻りつつある中での動きだ。

 

■日本郵政グループを上場させたことでなし崩しに

 

2015114日に、持ち株会社である日本郵政と、傘下の金融2社であるゆうちょ銀行とかんぽ生命保険が3社同時に上場したが、このことがSBKKの上場審査にも影響を及ぼすと考えている。

 

東証は日本郵政が上場する前の2012年に、上場している親会社が、グループ内の中核的な子会社を上場させる場合、その状況によっては、証券市場にとって新しい投資物件といえず、親会社が子会社を上場させて新規公開に伴う利得を二重 に得るような結果となるおそれがあり、典型的には、親会社の上場後に子会社を設立して、親会社の中核的な事業を移転し、子会社を新たな 投資物件のように装うような、詐欺的なケースを想定していると説明している。

 

東証の判断としては、ゆうちょ銀行、かんぽ生命のケースは、親会社の上場前から子会社としてその事業を営んでおり、加えて法により株式 の早期処分の方針が明確になっているため、想定していた詐欺的なケースとは異なるとしながらも、子会社株の処分は、親会社の企業価値に大きな影響を与えるので、最終的には、日本郵政の上場時における情報開示の内容や、ゆうちょ銀行、かんぽ生命株の処分スキーム・スケジュールなどを踏まえた結果ということらしい。

 

しかしながら、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が日本郵政から、上記の審査の観点から、どのくらい独立性が担保されているかということが重要だ。

 

ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、貯金や保険販売などの窓口業務を日本郵便に委託しており、日本郵便は20153月期にこの2社から9600億円の手数料収入を計上していた。 現状、この委託手数料の算出根拠が非開示になっているが、上場時の有価証券届出書には当然、「重要な契約」として、その算定根拠と金額の妥当性が記載されていなければならない。そして、個人的には、ゆうちょ銀行とかんぽ生命はその商品の販売チャネルを、ほぼ100%郵便局に依存し、販売チャネルの代替性がないことを勘案すると、この金融2社は、上場審査上、本当に独立した発行体として機能しているのか、甚だ疑問である。

 

しかもその委託料の金額の説明には比較検討出来る数値根拠がなく、ある意味、日本郵政を赤字とさせない価格設定を行う金額ありきではないのかと穿った見方をしてしまう。

 

「お上」の案件だから、しようがないないというのは簡単である。しかし取引所が上場の番人である限り、きっちりと精査する必要があるのは間違いないところだ。

 

SBGの中でのSBKKの位置づけ

 

SBKKの位置づけが中核的子会社であるか否かの判断が大きいが、以下のリンクはこの2月のQ3のセグメント別開示資料である。営業利益が全体累計で11488億円に対して、国内通信セグメントは調整前で6126億円で全体の53%超となり、普通に考えればこれが「中核的でない」という理由を探す方が難しいだろう。

 

SBG Q3 セグメント利益

 

Q3のIR説明会で孫さんは、コングロマリット・ディスカウントからの解放だと言っていた。

コングロマリット・ディスカウントとは、積極的なM&Aなどを通じて事業を多角化している企業において、単体でそれぞれの事業を営む場合と比較した時に、市場からの評価が低下し、株価が下落している状況をいう。

 

コングロマリットを形成するメリットとしては、様々なリスク耐性に強いということが言えるが、一方で、シナジー効果を生まない事業を同時に展開していることで、経営資源が分散し、経営の複雑化によって様々なコストがかかり、競争力が低下するというデメリットがある。投資家の立場としても、自らの意思で様々な業種に投資をして、リスク分散を図っているため、敢えてコングロマリット銘柄を保有する理由も乏しいといえる。

これらの理由から、市場の評価も厳しくなる傾向がある。

 

そこでSBKKの適正な価値が評価されていないということだが、そもそもSBGは業績見通しを開示していないので、その説明は成り立たない。411日時点でNTTドコモは予想PER13.69倍、KDDI11.98倍なので、結局はそのレンジに収束するものと思われる。

 

■資金調達のためだけの上場では

 

ここに来て、SBGの資金調達に変化がみられている。

 

124日のロイターで、傘下の英半導体設計ARMホールディングスを担保に最大50億ドルの融資を新たに受けることで銀行団と協議しているとリリースしたり、47日のブルームバーグでは、アリババ・グループ・ホールディングの株式を担保としたマージンローンを通じて約80億ドル(約8570億円)を借り入れたとの報道があった。

 

子会社を上場させるためには、独立性の観点から、特別利害関係者取引である、親子間の担保、保証を解消を行う必要があり、SBKKSBGの融資の保証人。担保差入人になっていると考えられるため、そのための代替策ということになるのだろうが、ARMは買収時に、純資産が2500億円程度だったので、SBG3兆円ののれんが計上されている。50億ドルだと、概ね5500億円で純資産の2倍さなので、それほど評価が高いとは思えない。

 

従来、キャッシュフローベース(ノンリコース)の資金調達スキームだったものが、ここに来て株担とかベタな資金調達に変わっているのは、気になるところだ。レバレッジは逆回転すると一気に持っていかれるので、正直好ましい調達とはいえない。今までこのくらいの額は普通に社債や仕組み債で済ませていたのが、今回SBKKの上場など、従来の方法とは変わって来ており、資金調達に何らかの異変が起きているのでは考えてしまう。

 

いずれにしろ、東証には適切な判断をお願いしたい。


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