ここに来て、一連の東芝問題が新たな局面を迎えようとしている。

東芝再建に伴う米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)の破綻処理雇用に係る問題と半導体メモリー分社の行方による技術の流出懸念である。

 

今回はこの半導体の技術流出懸念の可否を中心に述べたい。

 

■半導体事業である「東芝メモリ」の売却に伴う技術流出とは?

 

先週の日経の報道では、東芝が分離・売却する半導体事業の新会社「東芝メモリ」について、売却先が外資系企業となる場合、外為法による事前審査の対象とする方針とし、東芝の一部技術が軍事転用できる恐れがあり、売却の中身次第で計画の中止や変更を勧告すると報じている。政府系金融機関による一部株式取得を検討するなど、再建加速と、基幹技術や雇用の流出阻止を同時に進めるということだが、現在、東芝メモリの入札にはライバルの韓国・台湾勢などが関心を示している。海外への技術流出を防ぐため、経済産業省も官民ファンドの活用し、外資傘下になっても日本勢として一定の株式を確保する必要があると判断したらしい。

 

従来より、私は外資だろうが日系であろうが、民間が手を挙げている以上は、民間に任せるのが筋だと考えている。経済合理性の中で検討してそのビジネスの価値を精査することが原理原則であり、そこに政府や東芝自体の情緒的な思いを入れるから、モラルハザードが起きる。

政府が関与してやむを得ないのは、国防に絡む、航空、エネルギー、電波などだ。

 

この辺りを詳しく述べる。

 

■最近、政府が絡んで、国防、技術流出が議論されたケース

 

・日本航空

日本航空は従来からの不採算路線、高コスト体質の中で、リーマンショックが引き金となり、20101月に企業再生支援機構が管財人・スポンサーとなることを前提に会社更生法を申請した。航空機の評価損3,659億円、退職給付金引当不足3,554億円を負債計上し、更に債権放棄を前提とした負債を更生債権等として21,508億円を計上、17,134億円の債務超過となった。その後100%減資を行うと同時に、企業再生支援機構が3500億円の資本を注入した。

 

この時は、全日空による買収は空の寡占状態の懸念や、外資系航空会社を入れることは、国防・安全保障が議論され、結果として、政府が100億円出資し、また企業に対する出資の政府保証枠として1.6兆円が設定されている企業再生支援機構が、日本航空の再建に多くの役割を果たした。その後日本航空は2012年に再上場している。

 

・シャープ

本件は昨年4月に台湾の鴻海精密工業がシャープに対し約3888億円の第三者割当増資を引き受け、議決権の66%を取得したが、その時に産業革新機構もシャープ宛第三者割当3000億円を行い、銀行は、既存優先株2000億円を産業革新機構に備忘価格で譲渡したうえで、新たに1500億円のDES(債務株式化)を実施し、実質3500億円の金融支援を提示した。

 

産業革新機構としては、本件によりシャープ本体の過半数を取得し、その上で会社分割により液晶事業を分社し、産業革新機構が筆頭株主であるジャパン・ディスプレイと統合させる目的であった。この時もやはりシャープの液晶技術が海外流出される懸念があり、それに対する対抗策としての提案との意図があったと思われるが、民間が手を挙げている案件に対し、政府が政策指導していくことの是非も、意見として出され、結果としてシャープは鴻海の提案を受けた。

 

 

■上場時に政府が関与したケース

 

一方で、エネルギー政策の一環として、政府が上場会社に対して大きく支配権を講じている場合もあり、それが国際石油開発帝石株式会社である。これは国際石油開発と帝国石油の経営統合により2006年に発足した国際石油帝石ホールディングスが前身で、2008年に国際石油開発・帝国石油の両社を合併し、現社名へ変更した。この会社は2006年に上場したが、上場当初からエネルギー安定確保の面から、唯一黄金株を発行しながら上場が認められている発行体である。筆頭株主は経済産業大臣である。

 

 

■ドイツのケース

 

昨年末、半導体の生産設備(有機金属化合物半導体用MO-CVD装置)を手がけるドイツ企業のアイクストロン(Aixtron)社を買収しようとした、中国のFujian Grand Chip社に対し、同社の後ろには、国有の投資ファンドがついており、ドイツ政府・および米国政府は、アイクストロン社が同社に買収された場合、半導体技術が中国へ流出し、核技術、ミサイル、人工衛星など軍事産業に流用されることを懸念し、買収は中止となっている。

 

■半導体事業は優位性のある技術なのか

 

では、東芝の半導体技術はどのくらい重要な技術なのか。

東芝メモリが製造している半導体はNANDと呼ばれるフラッシュメモリーである。

 

※フラッシュメモリー

電気的に一括消去・再書き込みできる半導体メモリーのこと。DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)など従来のメモリーと違って電源を切ってもデータが消えないうえ、プリント基板に載せたままの状態でデータを消去し、さらに新たな情報を書き込むことができる。主に携帯電話のプログラム格納に使うNOR型と、デジタルカメラのメモリーカードや携帯音楽プレーヤーなどに使うNAND型がある。

 

世界でこのNANDを製造しているのは、韓国サムスン電子(33%)、東芝と米ウェスタンデジタル(WD34%)、米マイクロンと米インテル(24%)、韓国SKハイニックス(8%)の4グループである(2016年)

 

NANDは高密度化を行うにあたり、メモリ素子を微細化しなくてはならないが、高度に微細化すると、隣り合うメモリ素子が干渉を起こすため、最近では2次元の微細化から、縦方向にメモリ素子を積み重ねる3次元NANDを各社が開発し製造しているが、スマートフォンの大容量化や、IoT時代による3次元NANDメーカーの重要性は日々増しており、その最先端にいるのが東芝メモリということになる。

 

東芝は昨年、単位面積当たりの容量を従来の1.4倍に高めた3次元NANDを開発したと発表しており、この技術レベルは業界トップのサムスンにも引けを取らないレベルだという。そういった意味では、東芝メモリの3次元 NANDは十分に技術競争力があると言えるだろう。

 

■東芝メモリの3次元 NANDは技術流出の制約を受ける話なのか

 

今回、政府が対象条文としているのは外為法27条と思われる。

外為法27条は外国法令に基づき設立された法人などの外国人投資家がわが国の安全を損なったり、公の秩序の維持の妨げに繋がったりするおそれがある対内直接投資等については事前に届出の対象としており、具体的には防衛関連事業15業種(武器 、原子力、化学兵器、生物兵器、ミサイル、先端素材、材料加工、エレクトロニクス、電子計算機、通信、センサー、航法装置、海洋関連、推進装置、その他)に属する企業の株式10%以上を保有しようとする場合には、3ヶ月前までに行政庁に届けることになっている。

行政庁は必要に応じて、外為等審議会を開催し、「国の安全」に問題があると判断された場合は、取引の変更・中止等の命令を出すことが出来る。

 

 

■ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(CTI)による電源開発株式会社(J POWER)の株式取得中止勧告・命令について

 

実際にも過去にも株式取得中止勧告・命令が発動された事例がある。

2007年、電源開発の発行済株式の9.9%を保有するCTIが、20076月の定時株主総会の時点で増配要求を出すなど、経営方針に対して不満を表明しており、200711月に社外役員の派遣を経営陣に要請したものの、電源開発の取締役会が200817日、この提案に反対する旨の回答をした結果、CTI115日、電源開発の株式の保有率を20%まで引き上げるため、外為法による事前届出を行った。

しかし関税・外国為替等審議会外国為替等分科会外資特別部会が415日、この株式取得は外為法2710項に係る日本の「公の秩序の維持が妨げられるおそれがあるもの」とする意見を出したため、経産省はCTIの株式取得の注意勧告・中止を行っている。

 

それでは、今回の東芝メモリの3次元 NANDはどうなのか?

 

これは20079月の法改正により、輸出貿易管理令別表第一・外国為替令別表の項番(115項)に対象製品が列挙されている。

更に武器の製造業に加え、武器等を使用するために特に設計されたプログラムやソフトチェア業も届出対象となっている。

実際に、この表の中のエレクトロニクスの項目で「集積回路、フラッシュメモリ」などが明記されており、形式要件としては東芝の3次元 NANDは該当する可能性が高いと思われる。

 

一方で、2012年に会社更生法適用中のDRAMファウンドリであったエルピーダメモリを米国マイクロンによる買収は認可されており、仮に今回、東芝メモリの外為法27条による株式取得中止勧告があるなら、エルピーダとのケースとの違いを明確に示してもらいたい。

 

 

■政府が東芝メモリに関与するのであれば、東芝本体の株も取得し、原発含めた経営責任まで追及するのが筋。

 

また、もうひとつの懸案事項である米原子力子会社、ウエスチングハウス(WH)が28日にも米連邦破産法11条の適用を申請することで、東芝はWHに対する約8000億円の債務保証を全額履行する方針で、全体では1兆円の水準になるという。そうなるとおそらく今月14日の未監査での開示された損失額を上回る可能性は極めて高く、仮に東芝メモリが技術流出懸念により、海外投資家への売却が変更・中止となった場合、東芝再生のスキームが根底から崩れることになる。

 

おそらく、そうならない様に、政府が東芝メモリに一部出資するなどの方法が検討されるのであろうが、その場合は、政府は東芝本体の株式も取得し、残された原発部門も含めてその経営責任をしっかりと取らせる必要があるのではないか。

 

私は市場の生き残りは、あくまで経済合理性に長けた民間同士の判断に任せるべきであり、その結果、淘汰される企業が出てくること自体はある程度やむを得ないし、そしてそれが市場が健全である証左だと考えている。

 

政府の役割は競争力を失っていく一企業、産業を存命させるのではなく、そこに雇用されている人間をいかに速く、有望市場にシフトさせるか、その社会保障制度を整備するのが政府の仕事だ。 あくまで救うべきは個人であって、企業ではない。

 

今回どうしても、半導体を技術流出のために、政府が救うというのであれば、技術のある会社、大きな会社であれば、政府に救済してもらえるというようなモラルハザードが起きないように、東芝の経営陣にはその責任をしっかりと取ってもらう必要があると考える。


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