先日「現代ビジネス」へ寄稿した「鴻海、買収契約にようやく調印! シャープの次なる課題は「V字回復」だ」のオリジナル版です。

ご高覧いただければ幸いです。

先日の日経の報道によれば、ようやく、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープは
42日午後、鴻海による買収契約に正式調印した。鴻海は3888億円を出資してシャープの経営権を握る。郭台銘董事長は記者会見で、液晶事業を中心に成長投資を加速し、今後24年で経営再建を目指す方針を示した。シャープの従業員の雇用は原則維持する一方、経営陣は刷新する。シャープが液晶への巨額投資の失敗で経営危機に陥って4年余りとなり、外資傘下で抜本的な改革に取り組む。

 

シャープIR(開示事項の経過・一部変更)第三者割当による新株式の発行

並びに親会社、主要株主である筆頭株主及び主要株主の異動に関するお知らせ

 

■決定事項ハイライト

以下は、シャープのIR資料、及びマスコミの報道を確認した結果、現段階で決定している内容を、主にファイナンス面を中心に整理して記載する。

 

1.  第三者割当増資 3888億円

   普通株式2888億円 (1株88円)

   C種優先株式1000億円(1株8800円)

A)   C種種類株式の剰余金の配当及び残余財産の分配は普通株式と同順位。

B)   C種種類株式に議決権はなく、譲渡制限が付与される。

C)   C種種類株式には、普通株式を対価とする取得条項が付される。

   本普通株式の第三者割当増資により鴻海はシャープの議決権の66%を取得。いずれも、有利発行であり、シャープの株主総会の特別決議が必要。

   払込期間は、平成 28 年6月 28 日(火)から平成 28 年10 月5日(水)まで。

 

2.  保証金 1000億円

   既に3月31日に支払済みであるが、本第三者割当増資の実行の確実性を高めるため、締結する予定の株式引受契約において、1,000 億円のデポジットを提供する。

   本割当予定先が引受額を支払う義務を履行しなかった場合等には、当社が当該デポジットを予定損害賠償額として没収することが可能。当該デポジットが予定損害賠償額として没収されなかった場合には本第三者割当増資の払込金に充当されることがある。

 

3.  銀行取引

   3月31日期日の融資5100億円の期限を4月末日まで延長。金利引き下げで年間72億円コストダウン。

   別途3000億円の融資枠を設定

   優先株の買い取り(詳細確認中)

 

4.  株式引受契約について

   締結後2年間は、当社の事前の書面による同意なしに、当社株式を第三者に譲渡しないこと(なお、C種種類株式を子会社若しくは関連会社又は本割当予定先若しくはその関連会社の従業員に 譲渡する場合、当社は当該同意を不合理に拒否又は留保しないこと)

   株式引受契約において、シャープの責めに帰すべき事由により株式引受契約が終了した場合、又は本割当予定先の責めに帰すべき事由によらずして平成 28 年10 月5日までに本第三者割当増資の実行がなされない場合は、シャープはその事象の発生以降3か月間、鴻海精密工業対し、当社のディスプレイ事業を公正な価格で購入する権利を与えることに合意する。

   平成 28 年4月 15 日又は当事者間で別途合意した日までに鴻海より締役の指名がなされた場合には、取締役9名のうち6名以下又は取締役の総数の3分の2以下の人数を鴻海の指名に従い選任する。

 

5.  資金使途について

   家電IoT400億円

   液晶600億円

   有機EL2000億円

詳細は割愛する。

 

■株主総会の特別決議が可決されるか

 

基本的には、契約締結はしたが、「未だ払込みは確定していない」ことを、声を大にして言いたい。論点は2つある。

 

1.  株主総会の特別決議を可決できるか。

今回は1株88円であり、IR資料によれば、発行決議前日の平成 28 年3月29日の当社株式の終値 130 円に対して、32.3%のディスカウント、1か月間の終値平均である 141.80 円に対して37.9%のディスカウント、3か月終値平均140.52 円に対して 37.4%のディスカウント、6か月終値平均135.60 円に対して35.1%のディスカウントを行った金額と説明している。

IR資料では、日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」を提示しているが、それと共に東京証券取引所が2009年9月に施行した「『2008年度上場制度整備の対応について』に基づく上場制度の整備等について」の中で、上場会社向けに対する第三者割当増資に関するルールが一部改正されており、25%以上の希薄化若しくは支配株主の変更が起きる第三者割当増資については、第三者委員会などの経営陣から一定程度独立した者による第三者割当増資の必要性及び相当性に関する客観的な意見の入手、または株主総会の決議などの株主の意思確認が必要としており、本件はその趣旨を考慮し、株主総会の特別決議が必要となるとの判断なっている。

 

本件では銀行の債権放棄が無い結果、株主価値を毀損するので、希薄化含め既存株主にとっては不利な条件となる。既存株主に鴻海案を承認してもらうためには、鴻海とのシナジー効果が極めて大きく、将来キャッシュフローが大きくなり、企業価値が大幅に上がっていることを株主総会で説明する必要があり、それが受け入れられるか否かが極めて重要だ。

 

2.  株主引受け契約のノックアウトファクターは何なのか

一つには上記の株主総会の特別決議が否決された場合だが、それ以外にも、本件第三者割当増資が払い込まれないケースがいくつか想定される。
 

   業績が想定以上に思わしくなく、上場普通株の価格が1株88円と同等か、それ以下になってしまう場合

   シャープの重大な表明保証法令違反等

 

いずれにしろ、現在も上場しているので株価が変動するため、払込期限まで、1株88円が妥当と言えるか難しいところもあると思われる。
 

 

■この3年で3000億円以上の資本を溶かしてきたシャープ

 

ここまでに行ったシャープのファイナンスを検証する。

 

1.   2013年9月 公募増資1500億円
 

当初のプレスリリースでは、最大1663億円の資本増強を発表。公募増資で最大1489億円、それ以外に、LIXILグループやマキタ、デンソーを割当先とする第三者割当増資で173億円を調達している。また、同時に2013年4~9月期の連結営業損益が300億円の黒字(前年同期は1688億円の赤字)になる見通しを発表した。従来予想は150億円の黒字だった。

 

このファイナンスの主幹事証券は、野村、みずほ、三菱、大和で、国内公募で2億8000万株、海外公募で1億2800万株、オーバーアロットメント回収分で4200万株の合計4億5000万株。そして第三者割当増資では、提携関係にある3社に5021万株を割り当て、175億円(引受手数料含む)を調達。マキタに100億円、LIXILグループに50億円、デンソーに25億円を、それぞれ割り当てた。

 

本件は合計で5億株超の増資になり、シャープの当時の発行済株式総数11億8800万株に対し、今回のオファリングレシオ「新規発行株式数/(新規発行株式数+既発行株式数 )」は29.3%。一般的な公募増資のオファリングレシオの目安は15%~20%であることを勘案すると2倍の水準だ。シャープは結局この資金を全て溶かしてしまったということになる。

 

当時の資金使途は今後3年間で省エネ型パネル増産など液晶分野に860億円、新規事業の育成に210億円とのことだが、果たしてここまでの希薄化行ってまで公募増資で行う必要があったのか、はなはだ疑問だ。個人的にはこの時点で今回と同様に、種類株で第三者割当増資が筋ではなかったのかと考えている。

 

シャープ公募増資1500億円。本来は種類株で第三者割当のケースなのでは?

 

この年、三菱自動車工業は以前、経営危機の時に三菱グループから調達した種類株を公募増資にて消却した。この年、三菱自動車は当時純利益が最高益の見通しであり、ようやく公募の希薄化に一定の説明が出来る様になったからである。当時のブログでも書いたが、大型増資を行いたいのであれば、既存株主の希薄化を勘案し、三菱自動車の様に種類株の第三者割当を行ってから、業績が回復したら公募増資で種類株消却を行うのが妥当であったと考えている。

 

当然、種類株となると、グループ親密先若しくはファンドが出資ということにはなるかと思うが、仮に事業会社は手をあげなくても、ファンドであれば十分投資検討に値したケースだと思っている。ただし、そうなるとファンドから経営についていろいろと言われるのが嫌で、結局は公募増資にしたのではないかと穿った見方をしてしまう。
 

 

2.   2015年債務株式化
 

第三者割当増資2250億円により、債務超過のリスクを軽減

これが実はつい一年前の話だと思うと、シャープの凋落が本当に悔やまれる。

2015年3期に純資産448億円、自己資本比率1.5%となり、当時、前期(2016年3月)業績如何では債務超過の可能性大となったため、みずほ銀行、三東京UFJ銀行から合計2000億円の第三者割当増資(結果とJISファンドからの250億円の第三者割当増資、合計2250億円を資本金と資本準備金に50%ずつ計上し、そのうち約2200億円を銀行融資に充当した。更にそれを繰越利益剰余金に振り替えることで、銀行のための配当原資を作ったところであった。

 

債務株式化を行った当期に(結果として翌期となったが、)その債務株式化で増加させた純資産約2000億円をやはり全て溶かしてしまうなど、前代未聞である。

 

この様に、公募増資1500億円、債務株式化2000億円も含めて、シャープのここ数年の経営のダッチロールには目を覆うばかりであり、結果として今までの経営陣の意思決定の拙さが、まさに今回の鴻海との交渉にも、象徴的に出てきたと言っても良い。

 

 

■なぜ、ここまで交渉がこじれたのか。

 

1.   シャープ側のアドバイザリーの交渉ミスリード
 

これに尽きると考えている。筆者の古巣を悪くは言いたくないが、一部の報道によれば、今回シャープのアドバイザーはみずほ証券である。すべては基本合意の取締役会の2月25日の前日にシャープが提示した文書がケチのつき始まりだった。

 

シャープ偶発債務、鴻海再建案に不透明感 精査結果カギに

 

その文書は約3500億円に達する財務のリスク関連情報で、退職金や他社との契約に関する違約金、政府補助金の返還などに関する内容が含まれていたとか。

いわゆる偶発債務である。よく分からないのは、そもそもM&Aのデューデリジェンスとは、まさにそこを確認するためのものだ。さすがにシャープが、これを今の今まで、隠していたとは思えないし、鴻海がここを見逃していたとも思いにくいのだが。いずれにしろ、理解に苦しむところである。

 

偶発債務を確認するのがM&Aの基本。鴻海・シャープ買収で思うこと。

 

産業革新機構がディールから降りた以上、シャープは完全にまな板の上の鯉になってしまい、すべての交渉において劣勢に立たされた結果、当初合意した額から1000億円が減額されてしまった。鴻海からしてみれば、まだ契約していない状況なので、金額を引き下げるのは極めて妥当な交渉である。やはりわからないのは、なぜあのタイミングで今更偶発債務の資料が出てきたのかということだ。いろいろ内部事情はあるのだろうが、これは交渉のプロであるアドバイザーであるみずほ証券のミスリードだと思うのだが、いかがだろうか。

 

■シャープはV字回復の可能性が高いが….

 

シャープは、交渉の過程で鴻海の要求で、製品在庫の減損評価を2000億円近く増やし、前期で落とせるものをほとんど落としてしまう以上、今期のV字回復の可能性はかなり高い。この方法は、1999年、日産自動車が死に体だった時に、ルノーが救済しカルロス・ゴーン氏が日産リバイバルプランを行い、劇的なV字回復を見せたシナリオを想像させるものである。

そういった意味では、今期業績見込みを勘案すると、払込期日である10月5日までに、第三者割当増資が行われる可能性はかなりの確率で高いと思われる。

 

しかし、再度申し上げるが、今現在、未だ払込はされていないのは事実である。将来何が起きるかは誰にもわからないのである。

シャープはこの3年近く経営陣がダッチロールしてきたが、今期は何としても、鴻海からの第三者割当増資を受けるべく、業績に邁進していただきたい。


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