年末なので、少し違ったエントリーを。

蓮見圭一氏の「水曜の朝、午前三時」という小説がある。


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この小説を初めて読んだのはもう10年近く前だが、あまりにも印象が強く、読み終わったあと不覚にも泣いた記憶がある。おそらく小説を読んで泣いたのはこの作品だけだと思う。そのくらい強烈なインパクトを残した小説だった。
それ以来何年かに一度、思い出したように読んでいる。

当時、ビジネス本ばかり読んでいたので、「少し普通の小説を読みたいなぁ。」と思い、「ダヴィンチ」を参考に「これはいいかも」と思うものを
3冊ほど買って読んだのだが、どれも今一つだった。

改めて書店を散策し、「
The Catcher in the Rye/J.D.Salinger/村上春樹氏訳」、「ウルトラ・ダラー/手嶋隆一氏」、をレジに持っていこうとしたところ、この「水曜の~」が文庫本で平積みされており、題名に興味をそそられ、背表紙を読んで「これ読んで久しぶりに泣きたいな。」と思い、一緒に購入したものだった。

小説の内容は主人公の直美が45歳で病気で亡くなるのだが、彼女が1970年の大阪万博のコンパニオン 時代に出会った京大生との熱い思い出と、それと相反する当時の風潮であった「差別」を軸に描かれており、彼と結婚しなかった後悔と、今の夫に対する安心感とのギャップについて、娘に送った手紙を通して書かれているものである。

直美が大阪万博で語学堪能な京大生のことが気になり始め、恋を始めたころの切なさが躍動感ある描写で伝わってくる感じが良かった。特に舞台が、京都の四条河原町、御池、木屋町等、お気に入りの場所がたくさん出てきて、背景にすっと入ることが出来たのは良かった。

また、直美からの連絡を待っている小心者のフィアンセ(死語)に対して、

「無害な人間にかかわって無益な人生を過ごして欲しくはないから、あなたに敢えてこう言いましょう。女に宛てた手紙で、自分のことを私と表現するような男は、それだけで男としてはもう失格なのです。ましてや相手の女を貴女などと書いていて平気でいられる男などはじめからお呼びでないのです。」

とバッサリやってしまう強さ・激しさに惹かれてしまう。逆に言われた男は先ず立ち直れない。

ただし、この小説が本当に気に入った部分は、センテンスの短さを背景とした「手紙形式」から生まれる一人称の客観化だった。

常に自分が主語ではありながらも、行動、気持ちを「手紙」にしたためるために、そこに時差が生まれ、当時の自分と、今の自分の両方が文章に混在することになり、より「あのときああやっておけばよかったのに」という後悔の気持ちが切なく表現されている。


多くの人間が正しく文章を理解するのには、1センテンスは40~45文字だと言われている。

なぜならば、短いセンテンスをつなぐためには正しい接続語の活用が必須であり、(しかし、なぜならば、ゆえに等)、必然的にロジカルになるらしいと。

ちなみにそう言っている田中は全然
40字ではない(苦笑)

しかし、普通は意識しないと
5行くらいになるそうで、それは原稿用紙の半分200字が1センテンスなのはやっぱりちょっと変だということなんだろうなと、反省しきり。

誰にでも共通認識をしてもらうべき、クリティカルなものの考え方と、一方で好き嫌い等の定性面がはっきり出る小説。
一見両極に対峙する分野かもしれないが、双方に共通し、最も重要なことは、「読み手がすべて」であるということだと考えている。


「この部分はそうではなくて、実はこういうことを言っています。」とか「誤解をしていただきたくないのですが」などは、その時点で伝え方として未熟だということだ。

少なくとも一方通行であるコミュニケーションは読み手の判断が全て。
だから文章は怖い。残るし、ひとり歩きするし、激しく燃える場合もある。

話を小説に戻す。
この「水曜の朝、午前三時」は新刊は既に15年くらい前に蓮見氏のデビュー作としてベストセラーになったものだ。だからたくさんの書評やレビューも出回っており、大半は好意的だったが、ちょっと独断的かなという意見もあるというのが正直な感想である。

それでも、この小説先ほど改めて読み終えたが、自分の感性には十分響くものだった。

「直美さんは自分の気持ちを隠しきれない人だった。とても頭のいい人だったけど、それ以上に感情の人だった。本当にいまにも爆発してしまいそうな感情の持ち主でね。それが彼女の一番の魅力だった。」

「正直に言うとずっと似た人を探していたんです。でも、あの人は他の誰にも似ていなかった。」
「他にいないんだから好きにならずにいられないよな。」


愛された男からのラストのこのセリフ、その女性もう泣くしかないよな。

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