さて、先日、ハウス食品によるカレーチェーン壱番屋の買収が発表されました。壱番屋からみた後継者問題としてのエントリーはいくつもありますが、ハウス食品から見て、このディールの位置づけはどうなのでしょうか?今回はそれを探ってみたいと思います。

 

■ハウス食品は近年利益額、利益率ともに減少傾向

 
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ご存知の通り、ハウス食品はカレー、シチュー用ルウを中心に健康食品やスナックも手掛ける大手食品会社です。

グラフ①に様に全社的な売上は14/3期に食材輸入会社を子会社化したことにより近年は売上2300億円を確保する様になっていますが、グラフ②の様に営業利益は減少しており、しかも利益率が下降気味であるのが気になるところです。

 

セグメント別に見てみましょう。グラフ③④

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セグメントは大きく4つに分かれます。

1つは国内における香辛・調味加工食品および業務用製品の製造販売を行う香辛・調味加工食品セグメントです。ここにカレールーや、シチュー、ラーメンなどが含まれます。

次に健康食品の製造販売およびダイレクト(通販)事業を行う健康食品セグメントです。

ここに「ウコンの力」などが含まれます。

そして、海外事業セグメント、その他となります。

 

当然ながら、香辛・調味加工食品セグメントの売上、営業利益が一番大きいのですが、基本は横ばいの印象です。近年は海外事業、多角化を推進しているその他が売上を増加させていますが、利益はこれからというところでしょうか。利益率は香辛・調味加工食品を除き、回復基調です。

 

それでは、香辛・調味加工食品セグメントを更に詳しく見ていきましょう。グラフ⑤
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カテゴリーは大きく9つに分かれ、家庭用のルウカレー、香辛料のスパイス、業務用(壱番屋へのルウ供給はここになります。)、家庭用のルウシチュー、レトルトカレー(ククレカレー等)、スナック(とんがりコーン等)、ラーメン(うまかっちゃん等)、ルウハヤシ、デザートが続きます。

 

当然、圧倒的にルウカレーの売上が大きいわけですが、業務用以外は横ばい、若しくは前年比減少という印象です。原材料費の高騰が影響しており、それをマーケティングコストや人件費削減で補っている状況ではありますが、国内市場を勘案すると、なかなか成長が見えにくい状況ではありますね。

 

■ハウス食品はカレールーのガリバーだが、国内カレー市場に飽和感あり

 

それでは、この分野での競合比較はどうなのでしょうか?

以下のグラフはルウ・レトルト加工食品の売上・営業利益推移です。グラフ⑥⑦

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ハウスは二位のSB食品のほぼ2倍の売上を持っており、次にキューピー(12月決算)が12/12期からの参入にも関わらず、江崎グリコを超える売上を立てることに成功しました。

一方で利益率ですが、当初ハウスは5.6%と営業利益を出し、トップでした。しかしその後一時収益性を上げるも漸減し、現在ではほぼ横並びの3%台となってしまい、時にSB食品に比べ、利益率の低下が大きく、更には江崎グリコ、キューピーが利益率を改善している中、その収益性の改善が喫緊の課題となっています。

 

それでは、今度は市場を見てみましょう。

一番大きいカレーの市場はどうなのでしょうか?グラフ⑧
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このグラフは日本缶詰協会が発表している、製品カテゴリー別の生産量です。景気低迷時には外食から中食・内食への移行が追い風となりやすく、更に不況に強く、全体の生産量は上向きです。そのうちカレーが全体の市場の半数近くを占め、次に調味ソース、パスタ―ソースと続きます。調味ソースやパスタソースは伸長していますが、やはりカレーは頭打ちの傾向でしょうかね。

 

■高齢化対応と海外展開が課題のなかで、ハウス食品と壱番屋の関係は自然

 

市場全体の低価格化と成長率鈍化が進展する中で、各社ともニーズの掘り起こしに向けて、価格帯や年齢、ライフスタイルなどで顧客層を定めた商品開発を進めています。例えば、中華調味料レトルト市場において1~2名を想定した少量パック商品を販売したり、パスタソースメーカーでは単身者向けに、レンジのみで調理可能な冷凍パスタのラインナップを拡大しています。また、介護用レトルト食品を充実させるなど、高齢化を見据えた新たな市場創出を計画中です。

 

一方で食品事業の海外展開は、食文化の違いなどから難しいとされていますが、各社、日本製カレーをアジアなどへの展開に向けて各社積極的に戦略を展開しており、ハウス食品は2005年の中国進出以来、コンビニや飲食店などでのカレーメニューを促進し、レストラン事業で一般家庭への浸透を図っている最中です。また、中国レストラン事業は今回の壱番屋との合弁により、生産拠点を拡大するなど事業拡大に向けて投資を強化しています。

 

それはハウス食品が第五次中期経営計画で、香辛・調味加工食品セグメントでは、外食産業へのアプローチとして、「独自の競争力と価値提供による収益と成長の追求」を掲げていることとも大きく関係しているものです。

 

ハウス食品は従来から壱番屋の株式の19.55%を保有し、壱番屋はハウス食品の持分法適用会社となっていました。更にハウス食品はカレーで一番重要なカレースパイスを壱番屋に供給しており、その取引親密度から、今回、壱番屋の株式の過半数を取得すること自体は、特に違和感はなく、むしろごく自然な流れだと言えるでしょう。

 

■壱番屋の類を見ない利益率の高さ そして売上が大きくなればなるほど利益率が下がる業界

 

それでは、壱番屋の業績を見てみましょう。グラフ⑨
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これは外食業態の時価総額上位9社(壱番屋は9番目)の前期の売上高、営業利益率、そして時価総額を3軸で表しています。円の大きさと表記の金額が11月9日終値の時価総額です。壱番屋のTOBのプレスリリースは10月30日だったので、時価総額はプレス前から10%程度上昇していますが、何といっても、注目すべきはその利益率の高さですね。壱番屋だけが時価総額の大きい外食の中では唯一営業利益率が10%を超しています。当然、店舗形態には直営、フランチャイズ形式など各社の違いなどがあり、一概には言えませんが、改めてその収益力に高さに驚かされます。

 

そして、このグラフで、更にわかったことがあります。

それは、売上高が大きくなるほど、利益率が低下していくことです。すかいらーくが外れ値に見えますが、他の発行体は日本基準なのでのれん償却を行っています。一歩で、すかいらーくも会計方式が国際会計基準(IFRS)であるため、のれん償却が発生していません。すかいらーくは再上場する際に、国際会計基準に変更したわけですが、変更前の日本基準では毎期約100億円ののれん償却を行っていました。仮にそれを行っていたとするとすかいらーくの営業利益率は3.4%となり、外れ値が更に小さくなります。

そういった意味では、外食業態は必ずしも、規模が大きいことがいいとは限らない様です。

 

■TOBは成立の値動き

 

ハウス食品は、今回のTOBで既に取得している壱番屋の株式19.55%を加えて合計51%を取得し子会社化を図る予定ですが、追加の31.45%については10月30日終値である5370円に対し約11.7%のプレミアムである6000円で取得し、約300億円の投資で時価総額930億円、売上440億円、営業利益40億円が連結出来るのであれば、事業買収としても悪い話ではないと思われます。

11月10日終値は5880円とTOB価格の6000円を下回っていますが、これはTOBが成立する場合の特有の値動きですね。

 

通常TOBが成立する場合は、ほぼみんな同じ株の動きをします。日々値幅上限でTOB価格近辺まで株価を寄せた後、TOB価格の若干下で張り付つくことになります。TOBに応募する場合は公開買付代理人である証券会社の口座を開設しなければならず、TOB価格で売却しても、口座開設手数料を徴収されるため、その差し引き金額程度で市場で売却するのと同じことになるためです。口座を開設してTOBに申し込むくらいなら、手数料差し引き後の株価で市場で売却した方が、楽だし速いということですね。

 

今回は、プレスリリースでは「両社のノウハウを活用したメニュー開発や調達・生産での協働、海外事業の強化、新規事業の創出などをシナジーとして見込んでいる。」としていますが、ハウス食品にとってはまさに、外食の強化と中国、東南アジアへの力強い足がかりになると同時に、壱番屋にとっても、事業承継相手として、恰好のベストパートナーと組めたことで、非常に良いディールになると思われます。両社とも引き続き業務に邁進していた大来たいと思います。

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