去る910日に、日本郵政株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命(以下、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命という)の3社同時上場が承認され、日本郵政の公開価格は1400円、ゆうちょ銀行の公開価格が1450円、かんぽ生命の公開価格が2200円と、いずれも仮条件の上限で価格決定されました。そして、いよいよ11月4日は3社同時上場となります。

そこで今日は、この3社のビジネスモデルについて分析してみたいと思います。

 

日本郵政の金融窓口業務の意味

 

日本郵政は5つの事業セグメントに分かれます。
 

1.      郵政・物流事業(事業主体は日本郵便)
 

  (a)       郵便事業

全国一律の料金で公平に行う郵便サービス(国際郵便も含む)

  (b)       物流事業

宅配便(ゆうパック等)及びメール便(ゆうメール等)等を行う物流サービス

  (c)       その他

通販事業者向けの決済サービス等
 

2.      金融窓口事業(事業主体は日本郵便)
 

  (a)       郵便・物流に係る窓口業務

郵便物の引受・郵便切手類の販売、ゆうパック等物流サービスの引受、印紙の売りさばき

  (b)       銀行窓口業務

ゆうちょ銀行から委託を受け、通常貯金、定額貯金、送金・決済サービスの取り扱い、公的年金などの支払い、国際や投資信託の窓口販売

  (c)       保険窓口業務

かんぽ生命から委託を受け、生命保険の募集や保険金の支払い

  (d)       物販事業

日本全国各地の名産品のカタログ販売事業とオリジナル郵便関連商品の開発し、郵便窓口と提携コンビニエンスストアにて販売

  (e)       不動産事業

公社から承継した不動産を開発、商業施設、住宅等の賃貸・管理事業等

   (f)       提携金融サービス

かんぽ生命以外の生命保険会社や損害保険会社から委託を受け、変額年金保険、法人向け生命保険、がん保険、自動車保険等を販売

 

3.      銀行業(事業主体はゆうちょ銀行)
 

銀行法に基づき銀行業を全国で行う。預金限度額内(通常貯金、定額貯金、定期貯金等あわせて1,000万円、財形定額貯金、財形年金定額貯金、財形住宅定額貯金あわせて550万円)での貯金業務、シンジケートローンの貸出業務、有価証券投資業務、為替業務、国債、投資信託及び保険商品の窓口販売、住宅ローン等の媒介業務、クレジットカード業務等を行う
 

  (a)       資金運用

個人貯金が90%を占める177.7兆円の貯金を、有価証券156.1兆円(うち国債106.7兆円)や貸出2.7兆円にて運用することで収益を確保。(20153月末現在)
 

  (b)       資金調達、資産・負債総合管理

郵便局のネットワークを通じて、お客様から通常貯金、定額・定期貯金等を預金限度額内でお預かり。
 

  (c)       手数料ビジネス

郵便局のネットワークを通じて、替業務、国債、投資信託及び保険商品の窓口販売、住宅ローン等の媒介業務、クレジットカード業務等を行い、手数料収益を確保。

 

4.      生命保険業(事業主体はかんぽ生命)
 

  (a)       生命保険業

生命保険業免許に基づき、かんぽ生命が生命保険の引受け及び有価証券投資、貸付等の資産運用業務を行う。
 

  (b)       他の生命保険会社その他金融業務を行う者の業務の代理または事務の代行

エヌエヌ生命、住友生命、東京海上あんしん生命、日本生命、三井住友海上あいおい生命、明治安田生命、メットライフ生命、アメリカンファミリー生命
 

  (c)       管理機構から委託された簡易生命保険管理業務

公社から管理機構に承継された簡易生命保険契約の管理業務の受託

 

5.      その他

 

郵便事業、銀行業、生命保険業はすぐわかる事業ですが、一つ特徴的なのは金融窓口事業です。これは郵便局の窓口でゆうちょ銀行とかんぽ生命から、銀行業務と生命保険業務を委託されて行う事業ですね。これが今回の日本郵政グループ3社の上場において、大きな論点となります。

 

日本郵政の売上主体は生命保険業務。利益率は銀行業務がダントツ。運用は国債が70%

 
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は日本郵政の2015/3期の業績をグラフにしたものです。

売上に当たる収益は生命保険収益が10兆円を超え、全体の売り上げの3分の2以上を占めます。そして、銀行収益と郵便収益が2兆円程度で、業務費と人件費を控除した11160億円となります。

 
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はセグメント別に見た売上、セグメント利益の2年推移です。これは銀行、生命保険以外に、郵便事業を郵便・物流と金融窓口に分けますが、生命保険の売り上げが大きいのですが、前々期に比べ責任準備金戻入が減少し、減収となりました。

また、金融窓口業務はゆうちょ銀行とかんぽ生命から委託料が売上として計上されるにあたり、これはグループ会社取引なので日本郵政の決算では内部消去され影響はありませんが、ゆうちょ銀行、かんぽ生命単体の決算では経費として計上されるため、2社の上場においては、この委託料の妥当性が論点となります。

 
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はセグメント別の利益の2年推移です。郵便事業はほとんど儲かっていないことがわかりますね。一方で銀行利益が大きく、グループの中では生命保険よりも金額が大きくなり、利益率は27%を超え、圧倒的な収益性の高さを誇ります。

 
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次に資産・負債を見てみましょう。2015/3期の日本郵政のバランスシートですが、

御覧の通り、資産はほとんどが有価証券になります。ゆうちょ銀行やかんぽ生命で約222兆円を運用しているわけですね。普通の銀行であれば、この資産の部には貸付金(融資)も計上されることになりますが、ゆうちょ銀行はほとんど融資が出来ていません。そしてこの資産を支えている、いわゆる有価証券の運用原資は個人のお客様からの貯金となります。これが約175兆円。また保険契約準備金というのは、保険契約準備金は、かんぽ生命が保険業法において将来の保険金などの支払いに備えて積み立てが義務づけられているもので、支払備金、責任準備金等があります。いずれにしろ、日本郵政グループの資産・負債は極めてシンプルで、預かっている貯金とそれで運用している有価証券が大半ということですね。

 

それでは、有価証券とは何で運用しているのか?
 
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2015/3期の有価証券の内訳ですが、約70%が国債で運用されています。その金額は約154兆円で、概ねゆうちょ銀行が104兆円、かんぽ生命が50兆円程度ですが、日本郵政は徐々に国際の運用比率を下げてきています。それは上場するのであれば、リスク・リターンについても再度見直しが必要であり、株式等含めて他の投資主体も検討していかなければならず、そういった意味では今まで国債の約20%近くを保有していた大口引受け先に運用の主体性を持たせることは、国としても悩ましいところではあります。

 

 

ゆうちょ銀行・かんぽ生命の日本郵便への窓口委託料支払は約1兆円

さて、次にゆうちょ銀行の業績です。

現状ゆうちょ銀行とかんぽ生命は日本郵政に100%連結なので、両社の資産の合算が日本郵政に反映されているという理解で良いのですが、個社別の損益状況はまた違った状況となります。
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はゆうちょ銀行の2015/3期の業績です。

資金運用収益のうち、96%が有価証券の利息配当金です。要はゆうちょ銀行の収益のほとんどは利息と配当金ということになります。そして、コストとしては、調達費用、人件費等がありますが、大きく目を引くのは日本郵便宛に銀行窓口業務を委託している費用が年間6210億円かかっています。これは日本郵政の連結決算では内部消去されるため、問題ありませんが、ゆうちょ銀行自体が上場するにあたり、このコストは顕在化するため大きな負担となります。

 
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同じようにはかんぽ生命の2015/3期の業績です。

かんぽ生命は保険料収入が約6兆円近くあり、それにゆうちょ銀行に匹敵する資金収益があるわけですが、やはり約3600億円の日本郵便宛の生命保険窓口業務の委託費用が掛かっています。2社合わせて、実に約1兆円近くの費用を支払っていることになります。

この金額の妥当性はどうなのでしょうか?

 

日本郵政・日本郵便とゆうちょ銀行、かんぽ生命との取引についてす。

日本郵政と日本郵便との取引は以下の通りです。

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 表

日本郵政、日本郵便共にかなりの取引があるわけですが、やはり窓口業務の委託契約の妥当性がかなり重要となりそうです。

 

以下、日本郵政有価証券届出書129ページ抜粋

日本郵便は、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命保険との間で、委託手数料の算定方法等を定めております。

ゆうちょ銀行とは、委託手数料支払要領を締結しており、ゆうちょ銀行直営店での業務コストをベースに、日本郵便での取扱実績に基づいて委託業務コストに見合う額を算出し、郵便局維持に係る「窓口基本手数料」、貯金残高に応じて支払われる「貯金預払事務等」、送金決済取扱件数に応じて支払われる「送金決済その他役務の提供事務等」、資産運用商品の販売額に応じて支払われる「資産運用商品の販売事務等」の手数料を設定しています。

これに一定基準以上の実績の確保や事務品質の向上のため、成果に見合った「営業品質・事務報奨」を合わせた手数料となっています。

 

かんぽ生命保険とは、代理店手数料規程等を定めており、募集した新契約に応じて支払われる「募集手数料」、簡易生命保険契約の継続に応じて支払われる「継続手数料」、保有契約件数等に応じて支払われる「維持・集金手数料」、総括代理店契約業務に対して支払われる「総括代理店手数料」が設定されています。

また、一定基準以上の実績の確保や契約維持管理のための活動促進等のため、成果に見合った「ボーナス手数料」等のインセンティブ手数料が設定されています。

なお、募集手数料は複数年、継続手数料は最長10年の分割払いとなっており、維持・集金手数料に設定されている単価は、実地調査に基づく所要時間や、これに係る人件費等を基に算出されており、原則3年ごとに改正を実施しております。

 

本当に親子上場が正しかったのか?

以前、異例尽くめの日本郵政上場 親子上場は機能するのか?で、書きましたが、親子上場では常に親会社と子会社の少数株主との利益相反や、親会社から見た子会社少数株主への利益流出などが課題とされており、特に子会社の上場については、親会社に依存することなく、独立した事業運営が可能か否かが、審査上重要であり、ヒト、モノ、カネ、情報等すべてにおいて、一定の定量的な数字をクリアしなければならず、結構ハードルが高い項目もあります。

 

特に個人的には、ゆうちょ銀行とかんぽ生命はその商品の販売チャネルを、ほぼ100%郵便局に依存し、販売チャネルの代替性がないことを勘案すると、この金融2社は、上場審査場、本当に独立した発行体として機能しているのか、甚だ疑問です。しかもその委託料の金額の説明には比較検討出来る数値根拠がなく、ある意味、日本郵政を赤字とさせない価格設定を行う金額ありきではないのかと穿った見方をしてしまいます。

 

いずれにしろ、グループの企業価値を高めるためには、金融2社の事業基盤の拡大のため、新規事業を届け出制にするべく、日本郵政の保有比率を早期に50%以下までに引き下げることは極めて重要であり、そして、この2社を同時上場させることが、その目的を達成のためには一番有効だと考えたのでしょう。

また、財務省の目的である復興財源の確保については、財務省が保有する日本郵政株の自社株買いを行うことで、達成しようと言うことらしいですね。

 

本件には上記の様な政治的、政策的な意図のある上場であることは十分に理解しているつもりですが、現場の立場から申し上げるとやはり親子上場は本件含めて「反対」の立場をとる次第です。

 

次回は日本郵政3社のバリュエーション、ファイナンスを分析したいと思います。

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