【ハイライト】
 

・ソニーに各事業業績は回復基調だが、最大事業の携帯電話事業の赤字幅が拡大。
 

・過去1年のソニーの株価パフォーマンスは総合電機で独り勝ち。今回の公募増資自体は可能。
 

・ただし、ROE10%を掲げる中で今回の希薄化はそれを更に遠ざける施策であり、事業戦略と財務戦略が噛み合っていない。
 

・過去10年フリーキャッシュフローが2回しかプラスになっていない中で、新たな資金調達よりも赤字事業のリストラを引き続き徹底することが先なのでは。

 

 

さて、ソニーは6月30日、公募増資と新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行などで最大4400億円を調達すると発表しました。26年ぶりの公募増資で長期の資金を確保し、世界首位の画像センサーに集中投資して競争力をさらに引き上げるとか。
 

 

ただし、通常、公募増資等のプレスは15時以降に発表するものですが、本日のソニーの値動きをみると3700円手前だった株価が14時過ぎから急落して14時8分(IR発表前です)に3430円の安値となりました(引け値は3461.5円)。どこからか漏れたのだと思いますが、プライシングでは7%近く割をくったことになります。
 

 

資金調達の内訳は、公募増資で約3200億円、CBで約1200億円を調達する計画で、増資による新株発行は最大で9200万株、CBは新株予約権が全て行使された場合で2271万株となり、合計で発行済み株式数の9.8%に相当します。公募増資は国内で約4割、海外で約6割を募集し、払込日はともに7月21~23日の予定です。

 
 

【ソニーの業績は回復中だが、モバイル・コミュニケーションが未解決】


それでは、ソニーの業績から見ていきましょう。
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ソニー全体の売上と営業利益・当期純利益・売上高営業利益率の5年推移です。

売上高は、12/3期を底に4年連続で増加しており、トップラインは増加しています。一方で、営業利益は非常にばらつきがあり、当期純利益については、過去5年において、13/3期以外はすべてマイナスとなっています。要は配当原資を減少させているわけですね。

 
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更にセグメントで見ていきます。

ソニーはほぼ毎年の様にセグメントを変更しており、このセグメントは14/3期からのものです。経験から言うと、業績の悪い発行体ほど、よくセグメント変更を行います。社内的に、迷いがあり、考え方が錯綜しているからなのかもしれませんが、アナリシスサイドからすると、各事業ポートフォリオ分析を行うにあたり、過去からの時系列分析が出来なくなるので、極めて不便です。
 

セグメント売上では、従来、携帯電話の設計・開発・製造のモバイル・コミュニケーションが一番大きかったのですが、前期はゲーム&ネットワークスが急激に売り上げを伸ばして来ており、前期はセグメントで一番の売上となりました。デジタルカメラを中心としたイメージング・プロダクツ&ソリューション以外は、この三期で概ね売上を伸ばしている状況です。
 

一方で、営業利益でいうと映画、音楽、金融が漸増させており、ゲーム、イメージング・プロダクツ&ソリューション、テレビを中心としたホームエンターテインメント&サウンドがようやく、回復基調にある中、モバイル・コミュニケーションは更に赤字を拡大させており、その額も大きく、金融の利益よりも大きい状況です。そして、今回の資金調達はデバイスのイメージセンサーを中心の投資する計画です。
 

 

【今の株価水準なら、今回の資金調達は十分可能】

 

それでは、今回の資金調達を具体的に見てみましょう。

1.公募増資

・公募株式数 8720万株(国内分3200万株、海外分4800万株、海外分の追加上限720万株)

・売出株数   480万株 (すべてオーバー・アロットメント)

・吸収金額  最大3215億円

・希薄化   7.9%

・主幹事   野村、大和、SMBC日興、三菱UFJモルガン・スタンレー、JPモルガン

 
 

2. 130%コール・オプション条項付第6回無担保転換社債型新株予約権付社債

・発行総額     金1200億円

・発行価格     各社債の金額100円につき金102.5円 

・利率      本社債には利息を付さない。

・転換価額     未定 

・償還期限     2022/09/30 

・仮条件提示日/仮条件 37% ~ 42% (アップ率)

 
 

今回は公募増資と転換社債含めて最大約4400億円の調達となり、その内訳は公募増資で3215億円、転換社債で1200億円となります。

 

資金使途は、 公募増資は1880億円を2016 年9月末までにデバイス分野における 積層型 CMOS イメージセンサーの総生産能力を現在の約 60,000 枚/月から約 87,000 枚/ 月に増強する設備投資資金と、残額を2016 年9月末までにデバイス分野におけるモバイル・ 一眼カメラ向け等 CMOS イメージセンサーの画質向上に寄与する新規画素構造や更なる高速化 と高解像度を実現する積層構造の進化に関する研究開発費に充当し、転換社債による調達1200億円は、270億円をカメラモジュールライン構築、170億円をデバイス部門でのその他の設備投資、70億円をデバイスの新規事業のための開発設備投資、250億円を負債返済に充当するようです。

 
 

それではまず公募増資から見ていきましょう。

企業のエクイティファイナンスはいくつかの方法がありますが、典型的なのは公募増資です。
 

いわゆる普通株の新株発行(自己株処分含む)ですが、有利発行でない場合は取締役会の発行決議でよく、理屈上はダイリューション(希薄化)が起きない様な業績やエクイティストーリー(資金使途等)が説明出来る発行体がブックランナー(主幹事)の引受審査を経た上で、ローンチしていました。
 

 

要はどんな発行体でもファイナンス出来るわけではなく、業績がよくニューマネーを得ることで、新たな投資や事業拡大を、投資家に対して納得感を持って説明出来る発行体が中心となっています。
 

 

また、それ以外の重要なファクターとしては株式流動性があり、株式売買高回転率という指標ですが、具体的には1か月(20営業日)にマーケットキャップ(株式時価総額)の何%が売買されているかというものですね。一般的に公募増資でマーケットが消化出来る株数は売買高の3か月分が目安になっており、更に上限は概ね15%~20%程度です。
 

 

よって、公募増資をやりたいと言っても、どの発行体でも出来るわけではなく、業績も良く、今後の見通しも納得感があり、株式流動性が高い発行体だけが選択出来る、かなりハードルの高いファイナンスです。
 

 

野球に例えると、公募増資は150キロ超のストレート。分かりやすくて、どの投手も投げられる訳ではないので、みんなからの羨望の的です。日本ハムの大谷投手みたいな感じでしょうか。ただし、球が速いだけで、仕掛けがないだけに、バットの芯で捉えられた場合、持って行かれます。要はファイナンスに失敗すると大きく株価を下げることになります。

 

そういった意味では転換社債(CB)や新株予約権、ハイブリッド債などはカーブ、フォークボールみたいなものでしょうか(笑)


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そこで、ソニーの株周りの数字ですが、これはこの一年のソニーの株価パフォーマンスと時価総額推移です。

この一年、総合電機上位5社の株価パフォーマンスはソニーのみが前年比210%と一人勝ちの状態であり、それ以外の4社はTOPIXと同じ水準かそれを下回っています。また時価総額では、この一年で最下位から、トップになっています。いかにソニーに対する期待値が高いかということですね。ということは、成長のための公募増資に対するニーズも十分ありそうです。

 

では株式流動性はどうでしょうか?

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これはソニーの過去1年の月間株式売買高回転率です。概ね月間15%以上ですし、今回の希薄化率は7.9%なので、ほぼ問題なく発行された株式は消化されそうです。

この数字だけを見ると公募増資は十分可能と言えそうですね。

 

次に転換社債を見てみましょう。

転換社債(CB)は一定の期限の間に一定の価格(転換価格)で株式に転換できる権利がついて債券で、CBの理論価格はコール・オプションの部分の価値と債券部分の価値に分かれます。

 

債券は償還までスケジュールどおりにキャッシュフロー(CF)が発生するのに対し、CBは株価水準によっては株式への転換が進むため、CFは固定されていません。株式転換を狙う発行体からすれば、株価水準によっては償還リスクが発生する場合があります。

 

株式の保有者は株価変動リスクを受けるのに対し、CBの保有者は債券部分も保有しているため、株価変動に関係なくダウンサイド・リスクは軽減されます。

通常、発行体が発行価格100(パー発行)で発行したCBを主幹事が引受、それを募集価格102.5円で販売します。ですから2.5円が主幹事の手数料ですね。

 

今回のCBで特徴的なのは、やはり130%コール・オプション条項による繰上げ償還でしょうか。内容は2020年7月21日以降、20 連続取引日において株価が2015年7月13日から15日に決定される転換価額(現在株価からのアップ率37% ~ 42%)の 130%以上であった場合、残存本社債の全部(一部は不可)をその額面金額100% の価額で繰上償還することが可能となっています。同様のスキームは2013年1月のABCマート2018 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債300億円などがあります。

 

今回のCBの目的はプレスにも記載の通り、公募増資含めた希薄化を抑制しつつも株価がある一定の基準を超えた場合、社債が繰上償還となることで、社債を株式に転換させることを促すことで、資本を充実させることなのでしょう。その割には、アップ率が約40%と高く、転換のハードルが高い気もしますが、どうなのでしょうか?

 
 

若干、話がそれますが、

転換社債は非常に面白い制度設計が出来る商品で、発行体の資本政策の意図により様々な仕組みを組むことが可能です。

今回のソニーは社債部分を株式に促す設計ですが、

逆に社債のまま、償還させることを目的とした設計も可能です。

それが、2011年2月にローンチされたヤマトホールディングスのCBでした。

これは転換価格がローンチ時ヤマト株価のプラス40.8%とアップ率高めであり、更に転換制限条項(CoCo条項)で、一定期間、転換価格の120%を超えた場合に株式転換できるとしており、転換目的というよりも、負債性の高いストラクチャーとなっていました。

また、同時に300億円を上限とする自社株買いの実施も発表し、CB発行で負債を増やす一方、その資金で自社株買いをすることで、資本効率を高める狙いでした。

この様にCBはその発行体の目的によって商品設計を変えられる、柔軟性の高い商品として用いられています。
 

 

【しかし、ファイナンスを行う前に先にやることがあるのでは】

 

今回のファイナンスキーム、マーケット環境を勘案するとファイナンスそのものは出来そうな感じですし、現状、実際に新株ほとんど消化されてしまうと認識しています。

一方で、ソニーの財務状況を見てみましょう。

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これは、ソニーの過去10年の総資産と株主資本比率です。ソニーの資産はリーマンショックを除き、ほぼ一貫して総資産が増加している状況で株主資本比率は15%から上昇する気配がありません。また、この10年のキャッシュフロー推移の中で、フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー)は過去2回しかプラスになっていません。つまり営業で稼いだお金以上に投資に回していることになります。フリーキャッシュフローがマイナスの場合、預金が減少していくので、会社を存続させるためには資産の売却や金融機関からの借入れなど、資金を調達することが必要となるわけですが、ソニーは一貫して投資を行い、総資産を増加させており、今回はその資金を増資で賄おうしているわけですね。今後、モバイル・コミュニケーションの赤字解消見通しやその他の事業で拡大していく赤字をどう対処していくつもりなのでしょうか?
 

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また、これは過去10年のROEです。ソニーは 18/3期にROE10%以上、営業利益 5,000 億円以上目標としているわけですが、現状達成見込みは極めて厳しい状況と考えられます。しかも今回のファイナンスによる希薄化はROE向上施策に逆行するものであり、事業戦略と財務戦略がマッチングしておらず、単に自己資本の増強による財務力を補強しているに過ぎません。経営陣は既にリストラは完了との認識を持っているようですが、投資キャッシュフローが営業キャッシュフローの範囲内で収まる様に、まだまだ投下資本の回収(事業の撤退・売却)も必要でしょう。ファイナンスの前に先ずはしっかりとリストラを行うこと、そして今期業績は「お家芸」の下方修正無き様、頑張っていただきたいと思います。

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