一昨日の報道で、金融庁はベンチャー企業の新規上場を促すための規制緩和策を打ち出しました。

新規上場する際に提出する財務諸表を過去5年分から2年分に減らし、社内体制を明記する「内部統制報告書」も新規上場後3年間は提出猶予をすることで、新興企業の上場を後押し、経済活性化につなげたいとか。2014年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出し、14年度中にも実施する方針だそうです。

 

バランスの問題ですが、この規制緩和策、上場準備の発行体、主幹事証券担当者、そして投資家として携わった小職としては、開示の5年から2年への短縮は反対、内部統制報告書の3年猶予は賛成です。

 

上場審査には大きく2つあります。

一つは事業の継続成長性審査であり、申請期の業績見込みの確からしさと、将来に渡る事業モデルの成長性、換言すれば発行体の経営戦略の精査そのものです。
そしてもう一つは発行体の透明性審査です。内部管理統制構築およびコーポレート・ガバナンスの遵守の確認。平たく言えば、不正会計や一部役員の暴走が起きないようなチェック体制が機能していますか?ということの審査ですね。今回の2つの緩和はこの両方に関わるものです。


先ずは財務諸表の2期のみの開示ですが、これは取引所審査では継続成長性審査は終わっていますが、それを投資家にどのように開示するかを5期から2期に短くして事務負担を緩和しようということらしいですが、投資家に対して本当にそれでいいのかどうか?

地場の中小企業でも銀行融資取引のためには過去3期分の税務申告書を提出します。

それなのに、過去2期分だけの財務諸表で、投資家は果たしてどれだけのことがわかるのか?


既に上場している発行体は四半期毎に開示を行っており、長期にわたりその財務内容の適正性については担保されています。

一方で、今まで新規上場が5期を開示してきた背景には、新規上場する発行体は今まで開示情報がないため、過去5期を一度に開示することで、既に上場している発行体と同レベルの情報開示を求めたことにあります。

 

財務諸表は従来有価証券届出書では監査法人の監査証明に準ずる書面が付与された直近2期と、それ以前の3期(この3期を特別情報といいます)の計5期の財務諸表が添付されていました。もっとも投資家に広く配布されている目論見書は、特別情報が省略された監査対象期間の2期しか経理の状況には記載されていませんが、冒頭ページの企業の概要(ハイライト情報といいます)には特別情報含めた計5期が記載され、従来からの売上推移や、財務比率が比較できるようになっており、財務分析を行う上で、それなりに必要な期間であると認識しています。


もう少し細かい話をすれば、監査対象期間の期初の棚卸残高はその前の期の期末残高から繋がる話であり、監査法人の関与が必要です。更にほとんどの発行体は売上計上基準の変更や支払の発生主義への変更、適正な引当金計上など、それ以前の数年間の財務諸表の整備を行う必要があるため、財務諸表を2期しか開示しなくても、大きく負担が変わるものではないと考えています。

 
開示が少ないのが怖いのならばその株を買わなければいいという意見があるかもしれません。でも初めて上場する会社だからこそ、既に上場している発行体よりもしっかり開示をして自らの企業の価値を説明する必要があると思うのです。そうでなければ、過去の実績などが解からないために、公開価格に不必要にIPOディスカウントをかけられてしまう可能性も否定出来ません。


 
一方で内部統制報告書の3年猶予は発行体にとって非常に有難い緩和措置だと考えています。

私が上場申請担当者だったとき、東証審査、証券引受審査から出てくる意見は、ほとんど一般株主権利の保護に軸脚が置かれており、内部統制、予算実績管理などかなり厳格に行われていました。マザーズは本来ならベンチャーのエントリー市場であったはずなのに、実質は本則市場(東証一部、二部のこと)とほとんど変わらない体制整備を求められていました。

これは直接東証一部に上場するような発行体は別として、企業規模に関わらず概ね固定費に近いものであり、現在では5000万円程度かかります。しかも販売管理費に計上されるため、発行体はこの固定費も含んだ上で、申請期の業績を積み上げなければなりません。
これは上場を検討されている方であればどれだけ大変なことかお分かりになると思います。そのために更に売上を伸ばさなくてはいけないにも関わらず、利益率はさがってしまう。

そういった意味では上場コストの緩和は行って欲しいと思います。但し間違えてはいけないのは、上場コストのほとんどは証券会社、監査法人費用ですが、全範囲を浅く監査するということではなく、審査する範囲等を濃淡つけて緩和し、時間と費用を削減するということでしょうか。ここが大事。

 
当然、新規上場する発行体が増加することは非常に嬉しいことです。但し新規上場だからこそ投資家に対する適切な開示は必要でしょうし、過度な内部統制は不要であり、金融庁には過不足のない規制緩和を期待したいと思います。

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