株式会社エービーシー・マートは、昨日、2018 年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債で最大330億円(以下CB)をローンチしました。調達資金は新規店舗出店に充てるとか。

本件はバークレイズ・バンクを単独主幹事引受会社兼単独ブックランナーとする総額買取引受けによる欧州を中心とする海外市場(ただし、米国を除く)における募集です。
またCBは株価が上昇して行くことを前提としているため、今後他の発行もCB発行を検討して行くことが考えられます。

以下、ディールサマリーです。

ABCマート
格付 なし
.5年(2018/2/5 償還)
・発行金額 300億円 
・ク-ポン  ゼロ
・アップ率/転換価格 27.98% /4,588円
・募集価格 102.5%
・発行価格 100%

今回のCBの特徴は、130%コールオプション条項による繰上償還であり、20 連続取引日において株価が転換価額である4,588円の 130%以上であった場合、残存本社債の全部(一部は不可)をその額面金額の 100% の価額で繰上償還することが可能となっているところでしょうか?

今回のCBの目的はプレスにも記載の通り、株価がある一定の基準を超えた場合、社債が繰上償還となることで、社債を株式に転換させることを促すことで、資本を充実させることなのでしょう。

転換社債は非常に面白い制度設計が出来る商品で、発行体の資本政策の意図により様々な仕組みを組むことが可能です。
今回のABCマートは社債部分を株式に促す設計ですが、
逆に社債のまま、償還させることを目的とした設計も可能です。
それが、2011年2月にローンチされたヤマトホールディングスのCBでした。
これは転換価格がローンチ時ヤマト株価のプラス40.8%とアップ率高めであり、更に転換制限条項(CoCo条項)で、一定期間、転換価格の120%を超えた場合に株式転換できるとしており、転換目的というよりも、デッド性の高いストラクチャーとなっていました。
また、同時に300億円を上限とする自社株買いの実施も発表し、CB発行で負債を増やす一方、その資金で自社株買いをすることで、資本効率を高める狙いです。(結果的にどのくらい自社株買い出来たかは未確認)

CBの仕組みについて少し。
CBは一定の期限の間に一定の価格(転換価格)で株式に転換できる権利がついて債券で、CBの理論価格はコール・オプションの部分の価値と債券部分の価値に分かれます。

債券は償還までスケジュールどおりにキャッシュフロー(CF)が発生するのに対し、CBは株価水準によっては株式への転換が進むため、CFは固定されていません。株式転換を狙う発行体からすれば、株価水準によっては償還リスクが発生する場合があります。

株式の保有者は株価変動リスクを受けるのに対し、CBの保有者は債券部分も保有しているため、株価変動に関係なくダウンサイド・リスクは軽減されます。

債券部分の価値を決めるファクターとして、クーポン(債券の表面金利)や期間、長期金利や発行体の格付によるクレジット・スプレッドがあります。

一方でコール・オプションの価値を決めるファクターとしては転換価格(転換プレミアム)を現在の株価水準に対しどの位の上乗せ価格(アップ率)とするかが大きく影響しますか。そのためにはボラティリティ(株価変動水準)、配当利回り、貸株コストなどが含まれます。

今回のABCマートもそうですが、一般的なCBは通常、発行体が発行価格100(パー発行)で発行したCBを主幹事が引受け(今回はバークレイズ)、それを募集価格102.5で販売します。差分の2.5円が主幹事の手数料です。

今回のABCマートは社債部分に格付を取ってないのですが、CBの102.5円の内訳は通常、債券価格90、オプション価値12.5が標準となります。主幹事は最初から、全体が102.5になるように債券とオプションを調整していくわけですね。

債券部分は割引債と同じ考え方で、各発行体の格付けや社債年限により債券価値は85とか95とかは決まってしまうため、全体を102.5にするためにはオプション価値のアレンジが重要となってきます。株式転換せず償還した場合は、100で償還するわけで、当初102.5で買った投資家は2.5損をすることになりますが、通常はCBを買う投資家は償還を目的としているわけではなく、投資家はミニマムのリスクとして受け止めているのが実情です。

格付により、債券価値が違うので、クレジットの高い発行体がCBを発行する場合、債券価値を95で発行できるとすれば、オプション価値は7.5で良いわけで、ということは株価ボラティリティが低くても可能、換言すれば転換価格が低くてもCB全体の価値は102.5を維持できます。
ということはクレジットの高い発行体は現状水準よりも若干の上乗せ価格で債券を株式に転換できるメリットがあります。

もし、この発行体が転換を目的としない、債券としての資金調達を目的としているのであれば、債券価値の低い長期債を発行することが可能です。これがクレジットの低い発行体であれば、オプション価値を高く設計しないと102.5にならない。ということは転換価格を高めに設定し、自らハードルを高くせざるを得ないといことになります。

主幹事証券は発行体のCB発行のファイナンスの目的や、格付、株価を勘案しながらCBのストラクチャーを決めて行く。投資銀行のECM(エクイティキャピタルマーケット)としては腕の見せどころであり、一番面白い仕事かもしれませんね。

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