さて報道によれば、全日本空輸(以下、ANA)は3日、約2100億円の公募増資を実施すると発表しました。資金の一部をアジアの航空会社のM&A(合併・買収)に投じ、成長著しい域内需要を取り込むとのことです。また、財務基盤の強化として、有利子負債9637億円を14年3月期に8690億円まで減らす計画を掲げていますが、増資で削減ペースを早めたいとか。 



今日はちょっと教科書的な話から。
企業のエクイティファイナンスはいくつかの方法がありますが、典型的なのは公募増資でしょうか。
いわゆる普通株の新株発行(自己株処分含む)ですが、有利発行でない場合は取締役会の発行決議でよく、理屈上はダイリューション(希薄化)が起きない様な業績やエクイティストーリー(資金使途等)が説明出来る発行体がブックランナー(主幹事)の引受審査を経た上で、ローンチしてました。

いわゆる、どんな発行体でもファイナンス出来るわけではなく、業績がよくニューマネーを得ることで、新たな投資や事業拡大を納得感を持って説明出来る発行体が中心となっています。

また、それ以外の重要なファクターとしては株式流動性があります。株式売買高回転率という指標ですが、具体的には1か月(20営業日)にマーケットキャップ(株式時価総額)の何%が売買されているかということなんですが。一般的に公募増資でマーケットが消化出来る株数は売買高の3か月分が目安になっており、更に上限は概ね15%~20%程度です。 



野球に例えると、公募増資は150キロ超のストレート。分かりやすくて、どの投手も投げられる訳ではないので、みんなからの羨望の的です。ダルビッシュ有投手みたいな感じでしょうか。ただし、珠が速くて仕掛けがないだけに、バットの芯で捉えられた場合、持って行かれます。要はファイナンスに失敗すると大きく株価を下げることになります。


そういった意味では転換社債(CB)や新株予約権、ハイブリッド債などはカーブ、フォークボールみたいなものでしょうか(笑)



で、ANAはマーケットに対して豪速球のストレートを投げ込んできたわけです。ディールサマリーを見てみましょう。



ブックランナーは野村證券。ジョイントブックでゴールドマン・サックスとJPモルガンであり鉄板です。ファイナンス規模は国内募集が6億1400万株、海外募集が最大3億株。値決めは7月18日~20日です。ANAの発行済株式数は約25億2500万株なので、今回のオファリングレシオ(100 - 100 ×既発行株式数/( 新規発行株式数+既発行株式数 )は26.5%となり公募増資ではそれなりに大きくなります。



バリュエーションでは、2日の終値は224円で株式時価総額5656億円であり、予想PERは14.14倍でしたが、昨日はローンチの噂が出た後は大きく株価を下げ終値は193円、予想PER12.18倍、株式時価総額は4873億円と783億円と既に13.8%も下がっています。今後、業績予想がそのままであれば、理論上、株価は26.5%の希薄化となり165円近くまで下がってしまうわけですが、それでは既存株主は納得出来ないでしょうし、ブックランナーも芸が無いわけで、本件増資によりいかに更なる成長戦略をコミットして株価を戻していくかが重要となりますね。 



次に流動性ですが、1回のファイナンスで消化出来る規模の目安であるANAの直近3ヶ月の株式売買高回転率(月間売買代金 / 株式時価総額)は4月7.5%、5月7.2%、6月8.5%となっており、合計で23.2%であることから、今回のオファリングレシオ26.5%は何とか消化出来るとの読みなのかもしれません。 



航空業界は旅客輸送中心の航空会社は正規料金を支払うビジネスマン(少量高収益)と一般旅行者(薄利多売)を主要収入源として事業を展開しており、コストとしては、燃料費や人件費だけでなく公租公課(航空機燃料税など)や旅行代理店への販売奨励金などが、航空会社のコストドライバーとなっています。 



航空旅客数は、1998年以降、国内線・国際線共にほぼ横ばいの状態が続いていましたが、2008年に発生した金融危機の影響により、ビジネス利用客が出張を抑制したことが大きく影響し、2008年、2009年と共に減少が続いています。2010年に4本目の滑走路が羽田空港に完成し、国際定期便の就航が開始されたことで、市場縮小に歯止めがかかり、拡大に繋がることが期待されていましたが、東日本大震災などの影響も重なり、2011年にかけて需要の減少は続く見通しでした。また、オープンスカイにより、今回のような格安航空会社(LCC)も含めた海外航空会社との競争も同時に激しくなることが予想され、引き続き厳しい事業環境が続く可能性が高いと思われます。 



ANA、ぜひ頑張って欲しいと思います。


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