先ほどQBハウスで散髪をして来た。初めて行って以来、それ以降他の散髪屋に行った記憶がない。そして毎回行くと必ず感じることがあるのだ。

実は8年程前に1年足らずだが、QBハウスの経営企画室長をしていたことがある。
当時ある特命を受けていたこともあり、中期事業計画やビジネスモデルの精査を行っていた。駅ナカ10分1000円のビジネスモデルは、今ではもうすっかり世間に馴染んだ感じだが、まだ当時は「シャンプーしないだと?1000円で利益が出るわけない。すぐに潰れるよ。」と言われていた。

いつもイノベーションを起こすビジネスとは胡散臭いものだ。


当時私は創業者の2人と一緒に仕事をしており、幸せなことにこのビジネスモデルの誕生のきっかけを直接聞くことが出来た。

会長がいつも行く帝国ホテルの理髪店で散髪をしている時にあることに気づいた。髪を切る、髭を剃る、マッサージをしてもらう云々で2万円なのだが、このうち自分で出来ないのは「髪を切る」だけだ。ここだけを切り取って安い値段を提供すれば、商売になるのではないかと。


「俺のことはほっといてくれ」という顧客ニーズがある。

自分は関心がないが、しかたなくやらなくてはいけないこと、言い換えれば極力さっさと終わらせたいニーズか。

独身の時、社員寮の近くに定食屋があった。
「お、今日は早いお帰りですね」

安くて美味いがそれ以上にどうしようもなく話し好きなオヤジだった。
最初のうちは適当に話を合わせていたが、だんだんそれが苦痛になり、いつしかお店に行かなくなった。

テーブルに座り私が「メンチカツ定食」とだけしゃべり、巨人ヤクルト戦のテレビを見ながら、出てきた定食を黙々と平らげ、700円を払い、「ありがとうございました。」とオヤジから言われ、お店を出る。この間の20分に会話は1回。それで十分だ。何も問題ないではないか。


世の中、「髪型など、変でなければそれで良い」と思っている男性の方が圧倒的だ。

1時間待たされた挙句「いつも通りに」としか注文しようがない髪型のために、正に「床屋談義」をさせられ、4500円支払って帰る。こんな拷問みたいな日曜の午後なんかいらない。
QBハウスはそんな私みたいな男性がたくさん来ている。


「サービスとは何かを付け加えること」と考えるのはサプライサイドのエゴに過ぎない。


私は創業者2人からそのことを学んだ。
もっとも1000円というプライスは最初から決めていたわけではない。

安い券売機を探していたら、たまたまNTTがテレホンカード販売機を多券種対応機に入れ替えていた時期だった。従来の1000円券しか食べない券売機が在庫でいくつか残っていたので原価同然で譲ってもらった結果、じゃあ1000円で出来るサービスにしようと決めただけの話である。

だから創業期に券売機から出てきたのはQBのマークが入ったテレホンカードであり、実は公衆電話がかけられる。

しかしその偶然が、俺のことはほっといてくれというニーズに見事にマッチし、理美容業界にイノベーションを起こしてしまった。


QBハウスのビジネスモデルついてはかなり分析されており、事実そうなんだろうと思う。
競合はたくさん出てきたけれども、未だ本家を脅かすまでには至っていない。結局あの高稼働率モデルを維持出来る場所は限られており、そこを真っ先に押さえてしまったからである。


今ではQBハウスは年間ユーザーが1500万人となり、売上高100億円超、営業利益は10億円を超え、上場理美容企業の利益額を大きく上回っている。

各社がいろいろなサービス付加に苦労する中、QBハウスはほぼ創業以来変わっていないシングルモデルを淡々と進めているだけだ。もちろんリスク要因もあり、今後消費税が上がった場合、対応をどうしようとか考えられるわけだが、少なくともここまではかなり完成度の高いビジネスモデルだったと思う。


QBハウスが提供する価値とは何か?
1000円でカット出来ますというのはもちろんそうなのだろうが、実はホームページのどこにも「安い」とは書かれていない。 ここがこの会社のすごいところだ。

私はQBハウスが提供する価値とは「日曜日の午後の拷問からの解放」だと思っている。自分が望まない2時間を10分で終わらせ、残りの1時間50分を自分にとって興味のあることに充てることが出来る。月曜からまた自分の時間を切り売りしなくてはいけない人間にとって、ここは極めて重要だ。


「俺のことはほっといてくれ」
まだまだここに大きな事業機会があるような気がするが、どうか?

引き続き参加者募集中!  Hiroの投資銀行サロン